真夏の中村あゆみ

2011年8月

真夏の中村あゆみ Vol.8

 『翼の折れたエンジェル』をパワフルに熱唱するロックスター・中村あゆみに初めて出会ったのは、僕がまだ大学生の頃。出会った、といっても、それはTVを通しての話。実際に対面したのはそれから20年後。その彼女が2年前、「サイパンを旅行して、この島が大好きになっちゃった!」というのだから、これは絶好のチャンスである。早速、取材してみると・・・彼女の歩いてきた道は想像以上に熱い。すべてをポジティブに変換する思考回路は実に南国的であり、サイパンの歴史や空気感にもどこか通じるものを感じた。そんなことから僕の独断で‘サイパン大好き!中村あゆみ’を追いかけてみることにした。

 第1回目は、7月23日にリリースしたアルバム『1966628』のレコーディングの最中。張り詰めた空気の中、彼女はふだんと変わらないアットホームな笑顔で迎えてくれた。「レコーディングは上手くいってる?」「今日はノリノリでね、1発でOK出ちゃうかもよ~」。まるで少女のように、素直に喜びを表現する彼女。「今回のアルバムは、久しぶりにキターって感じの作品『ひまわり』でしょ。それから震災を受けてつくった『愛してるよNiPPON』。そのほか合わせて全6曲が入ったアルバムなんだけど。けっこうイケてると思うんだよね。楽しみにしててね」。ファンの死をきっかけにつくったという渾身の楽曲『ひまわり』(作詞:中村あゆみ・吉田健美 作曲:中村あゆみ)は、愛の真髄を唄い上げる、魂に響く名曲。最初は語りかけるように、そしてサビの部分では持ち前のハスキーボイスが胸を突き上げる。

 「この曲は、いろいろ悩んでつくったわけじゃなく、スーッと降りてきたんだよね。青い空に雲が流れ、風が草葉を揺らし、ふと見上げると虹がかかっていて。余計なものは何もない、あの素晴らしい景色。きっとサイパンの風景にしっくり馴染むと思うよ」。彼女は、自らが肌で感じたサイパンの情景を心に想い描きながら、この曲を仕上げていったのかもしれない。

 早速、music.jpから携帯にダウンロードして、タポチョ山に登ってみた。午後4時くらいだろうか。山頂の太平洋側を望む位置に立って、再生ボタンを押す。彼女の言葉通り、その音楽は、深い群青色の海、生い茂る緑の丘を待ち望んでいたように、サイパンの景色に染み込んでいく。どういうわけか、忘れたはずのあの夏の恋がふと甦り、涙がこぼれそうになった。

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