伝説の男

2011年10月

伝説の男 vol.10 「行野博三」

 人間にとって最も大切なもの、それは飲み水。南国サイパンで、その命の水を海水から精製・販売している日本人がいる。この島では誰もが知る水の会社『S.T.a.R Warter』の行野博三(ユキノヒロミ)。日本でいくつものビジネスを手掛けた起業家だ。  最初の起業は、なんと大学生の頃。学費と生活費を自力で稼ぎ出さねばならない状況もあり、縁あって大手電機メーカーの販売代理店を立ち上げたという。その後、一旦、サラリーマン生活を送るが、すぐに独立心が首をもたげる。ある日、営業マン生活で増えた山積みのワイシャツを見ていて、ふと、閃いた。生まれ故郷である鹿児島県の徳之島にはクリーニング屋がない・・・これだ!ドライクリーニングが何かも知らないうちに開業を決意。29歳で再起業し、大儲けとはいかないまでも成功した。

 しかし、彼の事業意欲を満たすには徳之島は小さすぎた。やがて野望の矛先は東京へ。上京後、イベント運営施工会社を設立。これが当たり、さらなる成功を収めることになる。けれども、時流とともにやがて収益性は低下。なら、次は何にトライしようか? 注力すべき新事業を模索していた時、設立時より関与していた『S.T.a.RWarter』から白羽の矢が立ったという。サイパンも楽しそうだし・・・ま、これも何かの縁か。軽い気持ちだった。

 2002年、極めて高性能なプラントを日本から導入し、協同経営でスタートしたこの会社。実は設立後、経営不振に陥っていた。社長に就任したのは、すでに崖っぷちの2003年11月。もはや手がつけられないほど悪化していた財務状況。実情を知った時、正直、逃げ出したくなったという。しかし、倒れている人を見ると、そのまま通り過ぎることができない性格。水のクオリティは間違いなくサイパン?1。絶対に業績は伸ばせるはず。そう信じて自らを奮い立たせ、死にもの狂いで再建に取り組んだ。そして2008年、ようやく軌道に。現在、売上は当初の2.5倍。今年、米軍に飲料水が提供できる指定会社に認定された。

 ご存知だろうか?STaRのブランド名が「S=SAIPAN」「T=TENIAN」「a=and」「R=Rota」の略であるということを。地域の暮らしに根差した、地域の人々の命を支える企業。その成長を、日本の起業家魂が牽引していることを、私たちは誇りに思いたい。

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